JICA(国際協力機構)は、毎年世界に千数百人の専門家を派遣するなどこれまでに多くの実績を持っています。私は、一番強力な技術協力はプロジェクトチームによる大掛かりなものだと思っています。供与機材は充実しているし、必要な人材で構成されたチームが一丸となって長期に渡って技術移転を実行するからです。
プロジェクトチームは、供与機材の使い方だけでなく、必要な知識を与えるためのセミナーを実行したり、カウンターパートに対する技術移転を行います。広い分野の専門家がいる訳ですから、さまざまな課題に対する相談にも乗れるものです。
私は、JICAのすべての活動を知っている訳ではありませんが、土木、農業、工業、環境などの分野では主として研究機関に対してこのようなプロジェクト型の技術移転が行われているようです。被援助国の体制や環境が整っていれば、こういう技術協力は大きな成果を生むものと思いますが、それでも現実にはいろいろな問題があるものです。
思いつくままですが、いくつかの問題点を列挙してみましょう。まず、一番大きな問題として挙げられるのは、相手国の人材ということが挙げられるかも知れません。日本側からいくら優秀な専門家を派遣しても、相手方に適当な受け皿がないのでは、技術移転が効果的に実行されることは難しいでしょう。
開発途上国では、国の政府と言っても給料の官民格差が大きいのが一般的なので、なかなか優秀な人材を確保することが難しいという背景があります。最悪の場合は、日本からの技術移転を受けた当事者が、その技術を売り物にして転職してしまうということすらあります。転職については、当事者にとって一番大事なことですから、他人がとやかく言えるものではないでしょう。ただ、技術移転を行う側の人にとってはこれほど痛いダメージはありません。
かと言って、転職しそうもない人材に期待しても、やはりそれだけのことでなかなか技術移転が進まないものです。プロジェクト型の技術移転でもそうですが、現地だけでは十分な教育、研修が行えないので、日本での研修コースを用意することがあります。この研修を修了したという証書も転職には有利に働くようです。
二番目に大きな問題は、組織上のボタンの掛け違いということがあるかも知れません。相手国政府の考えることと日本側の考えていることに食い違いがあるということです。組織を有効に機能させたくても、相手国政府の組織間の制約で、技術移転した内容を業務として遂行できないという問題が起きることもあります。これは大きな問題なのですが、日本側と相手国の代表者とが気長に協議を進めるしかないようです。
三番目に挙げられるものとしては、相手国の文化、習慣の違いに起因する問題があるでしょうか。外国人専門家は利用するものと考えている人もあるようです。ひどい例では、専門家が政府機関の研究者の博士号の取得の手伝いをさせられるというものもありました。個人の資格取得に専門家を利用するというのは日本では常識外ですが、世界にはいろいろな価値観があるものです。
その他にもさまざまな問題があります。例を挙げたらキリがないくらいです。プロジェクトチームの中の人間関係、カウンターパートとの人間関係、日本人の外国での生活上の問題、事故や犯罪、プロジェクトチームはそれらの問題を乗り越え、有効な技術移転を目指してさまざまな努力をしているものです。
(つづく)