これまでの私の専門家としての経験からは、開発途上国というものにはなんらかの発展を妨げるものがあるものです。その一番大きなものが教育だと考えています。ベネズエラの例では、貧しい人々は給料の安い教師しかいない公立の学校でレベルの低い教育を甘んじて受けないといけない状況にあります。お金持ちは、そういう国内情勢ですから、いい教育を受けさせるために子弟を留学させるということになります。
つまり、貧しい家庭に育った子供はいい教育を受けられず、親子代々貧乏から抜け出せないという宿命を負ってしまいます。こういう現実から脱却するために、多くの貧しい人々からの強力な支持を集めたのがチャベス大統領です。軍隊出身のチャベス氏ですが、そもそも軍隊には貧しい人々が多いので支持を集める基盤として格好のものだったのでしょう。
今の日本では、「格差社会」が問題視されていますが、開発途上国を見ていると、お金持ちにとっては格差がある方が居心地がいいものです。物価は安いし、使用人への賃金も安くて済みます。お金持ちの人々の本音は、それほど居心地のいい社会を変えることはないというものだと思います。チャベス大統領が過激な政策を執って来ているのは、そういう抵抗勢力と闘わなければならなかったからではないかと考えられます。
教育に関して、国民の全員に平等な機会を与えないというのでは、国全体の発展は望めないとしたものでしょう。教育の分野においても日本からの国際協力はさまざまな形で実行されていると思います。JICA(国際協力機構)だけでなく、国際交流基金という団体も活動を行なっています。
教育という例では、誰もが国際協力の成果が顕れるのには時間が掛かるものだと考えると思います。では、技術移転ではどうでしょうか。機材供与と必要なノウハウの技術移転で簡単に完了するものでしょうか。もしも、それが可能なら、いろいろな分野で国際協力が行なわれれば、開発途上国は簡単に先進国の仲間入りできるのではないでしょうか。
世界の現実は、先進国と開発途上国の格差はどんどん開いているものです。私の目には、国際協力というものはせめてその格差を少なくしようという努力のようなものに見えます。私は、国際協力というものは、それぞれの分野で日本人専門家が日本の技術移転を中心に活動し、相互理解を深め、活動を通して日本に対して好感を持ってもらえるようにするものではないかと考えています。
機材供与や技術移転というものは、その後の活用ということを考えると、組織や制度などに深い関係を持っているものです。技術移転で苦労するのは、専門技術というよりも被援助国の政府の中の問題と格闘しなければならないことがあるからだと思います。日本人専門家のアドバイスに応じて、その国の法律を簡単に変えるという政府はそうはないと思います。
私は、大気汚染防止の専門家ですが、純粋技術としていろいろ提案はできますが、発生源規制などはその国の経済活動と関係するので、簡単には法制化できるものではありません。外国の官僚の力関係や政治の世界まで踏み込むことは日本人専門家としてできることではないでしょう。
ということで、私は国際協力というものは、気の長い活動であるべきだと考えています。日本人専門家がカウンターパート(相方)と信頼関係を築き、その部下たちに対して技術移転を行うという啓蒙・教育活動こそが大事だと思います。
(つづく)